老舗ブランド「吉田カバン(PORTER)」を率いる4代目社長・吉田幸裕氏。
2025年11月、Perfume・あ〜ちゃん(西脇綾香)さんとの結婚報道で一気に名前が知られるようになりましたが、その歩みは「華やかな話題の人」という一言ではとても収まりません。
慶應義塾大学で経営を学び、イタリアの専門学校でカバンづくりを基礎から修得。
29歳で帰国してからは、吉田カバンの現場で品質管理などの仕事を経験し、36歳で4代目社長に就任しました。
創業者から受け継がれた社是「一針入魂」を守りながら、DX(デジタル化)やグローバル展開、新ブランド「POTR」や環境配慮型の新TANKERシリーズなど、次の100年を見据えた改革も同時に進めています。
この記事では、吉田幸裕氏の学歴・留学・キャリアの流れと、そこから生まれた経営哲学を整理しながら、「なぜ吉田幸裕氏が今、“伝統企業の新しいリーダー像”として注目されているのか」を解説します。
この記事でわかること
- 吉田幸裕氏の学歴・留学・キャリアの全体像
- 現場主義に基づいた経営哲学がどう形づくられたか
- 36歳で社長に就任した背景と、その後の経営改革
- PORTER・POTRブランドの現在の戦略と今後の方向性
- 吉田カバンが“国内生産100%”を貫く理由
吉田幸裕の経歴まとめ!慶應義塾で学んだ実学精神
吉田幸裕(よしだ・ゆきひろ)氏は、慶應義塾大学の出身と報じられています。
専攻までは公表されていませんが、父である3代目社長・吉田輝幸氏も慶應義塾大学商学部の卒業生で、親子二代で同じ大学に学んだことになります。
出典元:Executive Foresight Online(日立製作所)
「MADE IN JAPANの追求【前編】日本のカバン職人を絶やさない」
(閲覧日:2025年11月)
慶應義塾大学は「理論を社会で生かす」実学教育を掲げ、経済・経営分野のカリキュラムも充実していることで知られています。
講義やゼミの中で、企業経営やブランド戦略、長寿企業の事例などに触れながら、「数字だけでなく、人・モノ・価値の関係を見る視点」を養ったと考えられます。
吉田氏にとって、慶應での学びは「家業をどう引き継ぐか」を考えるきっかけにもなりました。
1935年創業の吉田カバンは、創業当初から国内生産と職人技術にこだわり、「一針入魂」を社是に掲げてきたメーカーです。
出典元:YOSHIDA & Co. 採用サイト「吉田カバンを知る」(閲覧日:2025年11月)
経営理論を学びながら、実家の会社を客観的に見つめ直したことで、
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国内生産を守り続けてきた理由
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職人とブランド価値の結びつき
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「安さ」ではなく「品質とストーリー」で選ばれるビジネスモデル
といったポイントを、理論と実例の両面から理解する土台ができたといえます。
慶應が掲げる「独立自尊」の精神は、のちに吉田氏が貫く
「MADE IN JAPANの生産体制を守りながら、自社ブランドの独自性を追求する」という経営姿勢とも自然に重なります。
学歴としての“肩書き”以上に、この時期に身につけた「理論を実務に落とし込むクセ」が、後の現場主義の経営スタイルの出発点になったと考えられます。
吉田幸裕の経歴まとめ!イタリア留学で身につけた職人の感性
慶應義塾大学卒業後、吉田氏は父・輝幸氏の勧めでイタリアの専門学校へ留学します。
目的は、カバン製作の技術とデザインを、現場に近い環境で体系的に学ぶことでした。
イタリアは、ファッションとクラフトマンシップが強く結びついた国です。
現地では、素材の選定から縫製、仕上げに至るまで、職人たちが「自分の名前を刻む仕事」として一点一点に向き合う姿勢に触れました。
この経験から吉田氏は、
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デザインは単なる見た目ではなく、「文化や価値観を伝える手段」であること
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使い手の動きや生活シーンを前提に、機能と美しさを両立させること
といった考え方を深く体感します。
留学先の専門学校では、
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素材の特性を見極める知識
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パターン設計や縫製など、カバンづくりの工程
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構造とデザインのバランスを取る考え方
を、座学と実習の両面から学んだとされています。
ここで身についた「使う人を中心に考える発想」は、その後のPORTERやPOTRのプロダクトにも通底する視点です。
また、イタリアでの修行を通じて、日本のものづくりとの違いも強く意識するようになります。
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イタリア:職人一人ひとりの個性や美意識が前面に出る「アート寄り」のものづくり
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日本:複数の職人が分業しながら、高い精度で仕上げる「チームとしてのクラフト」
吉田氏はこの2つのスタイルを両方知ったうえで、
「職人個々の技を尊重しつつ、組織として品質を守る仕組みづくり」へと発想を広げていきます。
イタリア留学は、単なる技術研修ではありませんでした。
経営者として世界のものづくりを俯瞰しつつ、職人の現場感覚を体に染み込ませた時間であり、
後の「伝統と革新を両立させるブランド戦略」の重要な伏線になっています。
吉田幸裕の29歳で帰国した理由
イタリアでの学びと実務経験を経て、吉田氏は29歳前後で帰国し、2010年代前半に吉田カバンへ入社しました。
ここで特徴的なのは、「いきなり経営のポジションに就かなかった」という点です。
入社後は品質管理の部署からキャリアをスタートし、その後も複数の部署を経験していきます。
出典元:東洋経済オンライン「価格2倍にしても素材変えた吉田カバンの挑戦」
(2024年9月20日配信/閲覧日:2025年11月)
この選択には、
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経営者であっても、まずは自社製品や現場を徹底的に理解すべき
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机上の経営ではなく、「現場の目線」を失わないリーダーでありたい
という吉田氏自身の考えが現れています。
品質管理から始まった現場主義
最初の配属が品質管理だったことにも意味があります。
素材の選定、縫製の精度、検品基準など、ブランドの信用を左右する工程を間近で見ることで、
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どこにコストがかかっているのか
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どこを効率化しても品質を落とさずに済むのか
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どの工程で職人の技が最大限生きるのか
といった「ものづくりの勘所」が自然と身についていきます。
その後、他部署も経験しながら、製造から販売までの流れを一通り把握していくことで、
のちのDX推進や在庫戦略の見直しにもつながる視点が養われました。
出典元:W’s PARTNERS 公式note
「株式会社吉田 EC在庫管理システム導入事例」(閲覧日:2025年11月)
一針入魂を身体で理解するプロセス
創業者・吉田吉蔵氏が掲げた社是「一針入魂」は、
素材選びからデザイン、縫製、検品に至るまで、一つひとつの工程に妥協しない姿勢を表しています。
出典元:YOSHIDA & Co. 採用サイト
「吉田カバンを知る」(閲覧日:2025年11月)
吉田氏は、職人の現場に入り、その手仕事を間近で見ながら、
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目には見えない縫い目の精度
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ミリ単位の調整がストラップの使い心地に与える影響
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長年使うことで初めてわかる差
といった要素が、ブランドへの信頼に直結していることを学んだと考えられます。
29歳で現場からスタートした数年間は、
「経営者になるための修業期間」というより、
「自社ブランドを一番深く理解するための投資期間」だったと言えるでしょう。
吉田幸裕は36歳で4代目社長に就任
吉田幸裕氏は、36歳で株式会社吉田の4代目代表取締役社長に就任したとされています。
世襲であることは事実ですが、その前に現場で経験を積み、「自然な形でバトンを受け渡された」という印象が強い交代です。
就任後の方針は一貫して、
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創業時からの理念を守ること
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そのうえで、時代に合った形に会社をアップデートすること
という二軸に整理されます。
PORTERを支えるDX・EC戦略
社長就任後、吉田幸裕氏が強く推し進めたテーマの一つがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。
自社ECサイトや直営店、百貨店・セレクトショップなど、販路が増えたことで、
「どこで何がどれだけ売れているか」を正確に把握することが重要になりました。
同社は2021年頃からECシステムを刷新し、在庫の一元管理や販路別の戦略的な在庫配分が可能な仕組みを整備。
これにより、「欲しい商品がネットで売り切れている」といった機会損失を減らし、
ECを“見せる場”から“売れるチャネル”へと転換していきます。
また、2023年には東京ミッドタウン八重洲に「PORTER TOKYO」をオープン。
旗艦店として、ブランドの世界観を体験できるリアル店舗とオンラインを連動させた、次世代型のリテールモデルも展開しています。
出典元:W’s PARTNERS 公式note
「株式会社吉田 EC在庫管理システム導入事例」(閲覧日:2025年11月)
国内生産100%を貫く決断
多くのアパレル企業が海外生産へシフトしていくなか、
吉田カバンは創業時からの「メイド・イン・ジャパン」を現在も貫いています。
出典元:YOSHIDA & Co. 採用サイト
「吉田カバンを知る」(閲覧日:2025年11月)
国内生産を続ける決断には、
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職人の雇用と技術を守ること
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品質とアフターケアを自社でコントロールすること
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「PORTER=日本製の高品質なバッグ」というブランドイメージを守ること
という複数の狙いがあります。
コストだけを見れば海外生産は魅力的ですが吉田カバンは、創業以来「一針入魂」の精神のもと、国内生産と職人技にこだわる事業モデルを貫いてきました。
3代目・吉田輝幸氏のインタビューや著書『吉田基準』では、職人や材料屋を大切にし、短期的な流行やコストダウンよりも、長く使われるモノづくりとブランド価値を優先する姿勢が繰り返し語られています。
4代目の吉田幸裕氏も、この方針を引き継ぐ形で経営を担っているとみられます。
出典元:Executive Foresight Online(日立製作所)「MADE IN JAPANの追求【前編】日本のカバン職人を絶やさない」(2025年11月閲覧)
新ブランドPOTRに込めた次世代へのメッセージ
2021年には、新ブランド「POTR(ピー・オー・ティー・アール)」がスタートしました。
出典元:GO OUT WEB(雑誌『GO OUT』公式サイト
「吉田カバンの新レーベル『POTR』始動。第1弾はストリート風味なコラボバッグ。」
(2021年8月18日配信/閲覧日:2025年11月)
POTRは、PORTERのDNAを受け継ぎつつも、
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バッグだけでなく、ライフスタイル全体を提案する
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アートや音楽、インテリアなど異分野とのコラボレーションを積極的に行う
といったコンセプトを掲げています。
カバン単体ではなく、「日常の行動や暮らし方をデザインする道具」としてプロダクトを位置づけ、若い世代や海外のユーザーにもブランドの世界観を広げる役割を担っています。
創業90周年を迎えるタイミングでPOTRのような新しい軸を立ち上げたことは、
「PORTERだけに依存しない、次の100年への布石」としても意味のある決断だと言えるでしょう。
吉田幸裕のPORTERを未来へ導くビジョン
吉田幸裕氏の経営ビジョンは、一言でまとめるなら
「伝統の継承」と「革新」の両立です。
祖父・吉田吉蔵氏が1935年に吉田鞄製作所を創業し、
社是「一針入魂」とともに日本の職人による国内生産を守ってきた歴史。
父・吉田輝幸氏が、1962年に生まれたブランド「PORTER」を成長させ、
TANKERシリーズなどを通じて国内外にファンを広げてきた歩み。
4代目である幸裕氏は、その流れを踏まえたうえで、
「時代に合わせて手法を変えながらも、本質的な価値は変えない」
というスタンスを鮮明にしています。
環境配慮型TANKERに象徴されるアップデートの仕方
その象徴が、2024年春に登場した新しいTANKERシリーズです。
出典元:YOSHIDA & Co. 公式サイト
「ALL NEW TANKER -何も変わらず、何もかもが変わる- 特設サイト」
(閲覧日:2025年11月)
PORTERを代表する定番シリーズであるTANKERは、
従来のイメージを大きく変えずに、素材を100%植物由来ナイロン(東レ「エコディア N510」)へと刷新。
石油由来の原料に頼らず、環境負荷を減らす方向へ踏み出しました。
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デザインやサイズ感は大きく変えない
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でも、中身(素材・ディテール・製造技術)は次の時代にふさわしい形にする
という「何も変わらず、何もかもが変わる」というコンセプトは、
まさに吉田氏が目指す“伝統と革新の同時進行”を体現しています。
海外展開と人材育成で次の100年を描く
PORTERやPOTRは、日本国内だけでなくアジア・欧米のセレクトショップや百貨店などでも展開されており、
「MADE IN JAPANのバッグブランド」として海外でも評価を高めています。
出典元:マイナビ2026
「(株)吉田【吉田カバン/PORTER/LUGGAGE LABEL/POTR/YOSHIDA】会社概要」
(最終更新:2025年3月26日/閲覧日:2025年11月)
一方で、国内の製造現場では職人の高齢化も進んでおり、
若い世代に技術をどう継承していくかが大きな課題です。
吉田幸裕氏は、
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若手職人の採用・育成
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社内での技術共有や教育プログラムの整備
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デザイン・マーケティング部門との連携強化
といった取り組みを通じて、
「良いものをつくれる人材が、長く働き続けられる環境づくり」に力を入れていると伝えられています。
単に「職人を増やす」のではなく、ブランドの歴史や思想も含めて次世代へつなぐ体制づくりこそが、
吉田氏が描く「次の100年」に向けた大きなテーマといえるでしょう。
まとめ
ここまで『吉田幸裕 経歴まとめ!29歳で帰国し36歳で社長就任の理由』と題して整理してきました。
吉田幸裕氏の歩みを振り返ると、伝統企業の後継者として、非常に筋の通ったステップを踏んでいることがわかります。
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慶應義塾大学で経営理論と「実学」の考え方を学び、家業を客観視する土台を形成
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イタリア留学で職人文化とデザインの本質に触れ、「世界基準の目」と「現場の感性」を身につける
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29歳で帰国後、品質管理など現場の仕事からスタートし、製造〜販売の実態を自分の目で確かめる
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36歳で4代目社長に就任し、DXやEC戦略、旗艦店のオープンなど、デジタルとリアルを統合した経営改革を推進
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国内生産100%・「一針入魂」の精神を守りながら、新ブランドPOTRや環境配慮型TANKERなど、次世代に向けた挑戦も同時に進めている
数字や経営戦略の巧みさだけでなく、
「職人への敬意」と「現場理解」に軸足を置いている点が、吉田幸裕氏の大きな特徴です。
Perfume・あ〜ちゃんとの結婚で注目が集まったことで、
これまで業界の人やファンの間だけで知られていた吉田カバンの物語が、より多くの人に届き始めました。
PORTERやPOTRのバッグを手にするとき、
その裏側には「創業90年の歴史」と「4代目が描く次の100年」が重なっている──
そう意識して見ると、同じバッグでも少し違って見えてくるはずです。
